【蟻のダンス】
男は 刑務所の 独房の中
絶望の淵に 立った 気持ちで
ぼんやり 床を 見ています
すると 壁の 穴から
俺は これから 長い期間
この ムショから 出られない
仮に 出所しても 金もない
でも 時間は 山ほど ある
この蟻に ダンスを 教え
蟻と 一緒に シャバに 出て
荒稼ぎするってのは どうだろう?
うんうん こりゃ 名案だ
蟻の ダンスか こりゃ ウケるぞ
男は 決心しました
まず 蟻が 逃げないように
壁の穴を ふさぎ
蟻の目を じっと 睨み
おい 蟻 踊れ!
ステップ 踏んでみろよ!
蟻に 向かって 叫びました
でも 脳みその 小さい
蟻は キョトンとしています
その後 何の 成果もないまま
月日は 流れていき
冬が 訪れました
独房の 床は 氷の ように 冷たく
蟻は ガクガク 震えています
男は ふと その動きを 見て
おい! とうとう やったな!
それ ブレイクダンスだろ?
半端なく キレキレじゃないか
お前 最高だよ!
生まれて 初めて
蟻は 褒められました
褒められるって 気持ちいい
もっと 褒めて欲しい
蟻の 心に 火が 付きました
それからと いうもの
蟻は 凄まじい スピードで
ダンスを 習得していきました
時間は 掛かりましたが
その後 ジャンルを 広げ
長い月日を 耐え抜き 蟻は
素晴らしい ダンサーになりました
そして いよいよ 出所の日
蟻を 肩に 乗せ
男は 颯爽と シャバに 出ました
お前の ダンス みんな 度肝抜くぜ
テレビだって 引っ張りだこだぜ
こりゃ 大金持ちになるな
男は 意気揚々です
よし まず 誰かに 見せよう
男は 喫茶店に 入り
テーブル席に 座りました。
蟻を 肩から テーブルに 降ろし
最高の ダンス 頼むぜ!
蟻も やる気 マンマンです。
ラジオ体操で 身体を ほぐし
今じゃ 最も 自信のある
ムーンウォークで 勝負です
テーブルの 上を 右から 左と
まるで 氷の上を 滑るような
その時 喫茶店の マスターが
注文を 聞きに やってきました。
お客様 ご注文は ?
男は 改めて 蟻を 見ました
ここが 勝負と
キレキレの ムーンウォーク
蟻の 全てを 出し切った
最高の 動きです
男は テーブルを 指さしました
ちょっと 見てみろよ
すると マスターは
慌てて 失礼しました!と
蟻を 親指で
ぶちっ!
・・・・・・・・・
はい この物語は ここまで。
これね 高校生のころ バイト先で
教えてもらった 物語なの
誰が 考えたのか?
そんな 落語か 小噺が あるのか?
良くは 分かりませんが
話の 最後が 衝撃的だったので
未だに ぼんやり 覚えているの
ふと これを 思い出したので
多少 脚色して 書いてみました。